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福岡地方裁判所 昭和50年(ホ)749号 決定

申立人 藤沢明哲

被審人 株式会社正金相互銀行代表取締役 中山一三

右代理人弁護士 和智昂

同 植田夏樹

同 古川公威

主文

本件について被審人を処罰しない。

理由

一、本件申立の要旨は、「申立人は昭和五〇年一〇月一〇日発信の郵便で、被審人が代表取締役である株式会社正金相互銀行(以下被審人会社という)に対し、過去六期分の①株主総会議事録、並びにこれに伴う②取締役会議事録の謄写、及び③同招集通知書④同営業報告書、それに⑤定款、各一部を郵送するよう請求したが、被審人会社は正当な理由がなくこれに応ぜず今日に至っているので、商法第二六三条第二項違反として被審人に対し同法第四九八条第一項第三号の罰則規定を適用することを求める。」というものである。

二、よって審案するに、審理の結果によれば前記日時頃、申立人が「株主総会・取締会議事録謄写、並び関係書類請求の件」と題する書面(以下請求書という)をもって、被審人会社に対し前記申立の要旨記載の如き請求をなしたこと(右請求書には多少趣旨不明の点もあるが、要するに、前記①ないし⑤の各書類の謄本(写し)の郵送方を請求するものと解せられる)、被審人会社は、今日まで申立人の右請求に対し応じていないこと、以上の事実が認められる。

ところで商法第二六三条第二項は、株主に対し同条第一項に掲げる書類(すなわち、定款、総会及び取締役会の議事録、株主名簿及び社債原簿)の閲覧又は謄写請求権を認めるが、右各書類の謄本請求権までは認めていない。従って被審人会社が申立人からの①株主総会議事録、②取締役会議事録、③招集通知書、⑤定款の各謄本請求に応じないからといって、同条項に違反するものではない。

また商法第二八二条第二項によれば、株主は会社に対し、同条第一項、第二八一条に掲げる書類(営業報告書も含まれている)の謄本等の交付請求権が認められている。しかしながら、株主の謄本交付請求が不当の目的に出で、その他権利の濫用と認められるときは、会社は右請求を当然拒絶できるものといわなければならない。しかるところ申立人の被審人会社に対する本件謄本交付請求がとうてい正当な権利の行使とは目されないことは、前記請求書の形式及びその記載文言自体に徴し推認できるところである。従って被審人会社において④営業報告書の謄本交付請求に応じなかったことには正当な理由があるものというべきである。

三、以上の次第で、被審人には商法第四九八条第一項第三号に該当する違反行為は認められないので、主文のとおり決定する。

(裁判官 土屋重雄)

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